「昆虫学博士に学ぶ“ホタル”」

長崎大学 教育学部 生物学教室
准教授/博士(学術)大庭 伸也

シリーズ1 ホタルの生態
ホタルの一生
ホタルはなぜ光る、どうやって光る

ホタルのすみかは、人里に近い生活排水が流れ込まないような川の周辺(写真は相河川周辺)

「ホタルの一生」

ここではもっとも有名なホタルで、日本固有種のゲンジボタルの一生を説明します。ゲンジボタルは人里に近い、生活排水が流れ込まないような川の周辺をすみかとします。ホタルの仲間はほとんどが陸上生活で一生を終えますが、日本ではここで紹介するゲンジボタルに加えて、ヘイケボタル(日本全土に分布し、体がゲンジボタルよりも小さく、弱々しくはかない光を放ちます。)、クメジマボタル(沖縄県久米島の固有種で、ゲンジボタルに似ています)の3種が水生生活を行います。

ゲンジボタルの成虫が見られるのは初夏です。五島列島では5月下旬~6月上旬にみられます。この時期、オスとメスが出会って交尾をし、その後、メスは川の水際のコケに400~1000個もの卵を産み落とします。約30日後に孵化した幼虫は川の中で生活を始めます。良く誤解されるのですが、ホタルが飛ぶ時期に見られる、植物の茎に着く白い泡はホタルの卵や幼虫ではありません。こちらはアワフキムシという全く別の虫の幼虫が入っています。

ホタルの卵や幼虫と間違えられやすいアワフキムシ

さて、コケに産卵された卵から孵化した幼虫は川の中でカワニナという長細い巻貝を食べて成長し、そのまま水中で冬を越します。体長3cm程度に成長した幼虫は、ちょうどソメイヨシノが咲く頃、春の暖かい雨が降る日の夜に、一斉に川岸の陸上へと移動、土に潜って土まゆという丸い空間を作り、その中でサナギになります。

昨年11月に相河川で採集したホタルの幼虫(観察後、川へ返しました)

その後、約1か月、土まゆの中でサナギとして過ごし、5月下旬頃に羽化した成虫が地上へと出てきて、私たちが見かけるゲンジボタルの成虫へとなります。このようにおおよそ約1年の一生ですが、幼虫の成長具合が良くないときは幼虫を1~2年延長して“留年”をする個体も見られます。成虫のゲンジボタルは夜露のみを口にして生活するため、幼虫時代の栄養だけで生活します。そのため、成虫としての寿命は1週間に満たないと言われています。

「ホタルはなぜ光る? どうやって光る?」
ホタルはなぜ光るのでしょうか?ホタルの仲間は光を放つことでお互いに交信をしています。別の回で詳しく紹介しますが、この光り方には地域ごとの違い、人間でいうところの方言のようなものがあります。もともとは臭いにおいを放つ虫なので、光ることとセットとして天敵への警告として進化したものと考えられています。ホタルの仲間は、ルシフェラーゼという酵素による生化学的な酸化反応によって光を放ちます。この光は省エネで光を放ちますが、1匹で2ルクス程度の明るさです。読書には500~1000ルクスの光が望ましいとされているので、ホタル1匹の光だけでは本を読むことは難しいでしょう。

昨年11月には新上五島町のみなさんとフィールドワークを行い、ホタルの講演会を行いました。
 

毎年、相河地区をはじめ町内あちこちで光輝くゲンジボタルは、秋に清流でカワニナを食べながら成長を続け、夏の訪れを待っています。「ほたるのふるさと相河川」(主催:四季を味わう上五島実行員会)は毎年5月中旬~6月上旬にかけて開催しています。今年も上五島ならではの幻想的な風景をぜひご覧ください。
 



大庭先生は、五島列島のゲンジボタルの明滅パターンが、これまでに報告されていたものに比べて速いという特異性を明らかにし、論文を学術誌「Entomological Science」に発表されています。五島列島型ゲンジボタルの論文で2021年日本昆虫学会論文賞受賞。

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