「昆虫学博士に学ぶ“ホタル”」

長崎大学 教育学部 生物学教室
准教授/博士(学術)大庭 伸也

シリーズ3 ホタル観賞のすすめ
  1.おすすめの場所と時間帯
  2. ホタル観賞時の注意事項
  3.上五島でホタルを鑑賞する人へ一言


1.おすすめの場所と時間帯
ゲンジボタルの鑑賞には何といっても生息する河川を知ることが第一です。河川の近くで歩きやすい道路があり、人工照明がない場所が観察しやすいスポットになります。川の中にカワニナがみられる、植物が覆い茂っている、川全面がコンクリートで護岸されていない、川の水が澄んでいる、だいたいこれらの条件が揃う川であればゲンジボタルは住んでいるはずです。私が初めて行く場所でゲンジボタルの生息地を探すときは、明るい時間帯にこれらの条件の場所をメモしておき、夜に再訪するようにしています。

ゲンジボタルの発光が良く見られるのは日没後1~2時間の時間帯です。だいたい20時~21時くらいといわれています。そして、風があまり強くない蒸し暑い夜がホタル観賞には適した条件でしょう。ゲンジボタルは気温の低下とともにゆっくりと光るようになりますが、五島列島型ゲンジボタルは温度に関係なく約1秒に1回の明滅が固定されているようです(現時点でその理由はわかりません)。

2.ホタル観賞時の注意事項
 鑑賞の時の注意事項は大きく3つです。
 一つ目は観賞する人の安全の確保とマナーの問題です。
暗い時間帯であることから、野生動物やマムシの存在に気を付けなければいけません。また、多くのホタル類は里山的環境に生息しているので人家が近い場合が多く、大声で騒ぐことは地元の方の迷惑となります。静かに観賞し、ゴミも必ず持ち帰りましょう。
 二つ目はホタルへの配慮です。
ホタル類は全般的に明るい場所が苦手なので、懐中電灯やカメラのフラッシュ、スマートフォンの画面の光でホタルを直接照らさないようにしてください。車で行く場合は、ホタルの発生地内でライトをつけたまま走ったり、ハザードランプを点灯させたりするとホタルへの影響が懸念されるので、離れた場所に車を停めて現地へは歩いて行くようにしましょう。
 そして三つ目は、ホタルへの心配りです。
ホタルの成虫の寿命は数日で、飼育は難しいためむやみな採集は厳禁です。触ったり捕まえようとしたりせず、観察するのみにしましょう。虫よけスプレーなどはホタルが飛んでいるところでは使用せずに、事前に体にスプレーしておいてください。

3.上五島でホタルを鑑賞するみなさんへ
 上五島には「ほたるのふるさと相河川」など、昔からホタルの存在が文化として根付いている地域と言えるでしょう。ホタルを守る活動のみならず、ホタルの存在を通して地域の自然に目を向けてください。『昔はたくさんいた』ではなく、『昔からたくさんいた』と言えるようにこの素晴らしい環境を守り、後世に伝えていく術を皆さんで考えてほしいと願います。キーワードはさまざまな生物と環境をセットで残すという生物多様性の保全です。上五島のホタルはSDGsのシンボルと言えるかもしれません。

 

毎年、相河地区をはじめ町内あちこちで光輝くゲンジボタルは、秋に清流でカワニナを食べながら成長を続け、夏の訪れを待っています。「ほたるのふるさと相河川」(主催:四季を味わう上五島実行委員会)は毎年5月中旬~6月上旬にかけて開催しています。今年も上五島ならではの幻想的な風景をぜひご覧ください。
 

図書館のスーツを着た男性

自動的に生成された説明
大庭先生は、五島列島のゲンジボタルの明滅パターンが、これまでに報告されていたものに比べて速いという特異性を明らかにし、論文を学術誌「Entomological Science」に発表されています。五島列島型ゲンジボタルの論文で2021年日本昆虫学会論文賞受賞

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