「昆虫学博士に学ぶ“ホタル”」

長崎大学 教育学部 生物学教室
准教授/博士(学術)大庭 伸也

シリーズ2 五島列島型ゲンジボタル
 1.五島列島型ゲンジボタルの特徴
 2.新たな発見/考察 ※最新の分析結果をもとに




1.「五島列島型ゲンジボタルの特徴」
“五島列島型”ゲンジボタルを聞いたことがあるでしょうか。これを知っているあなたは、五島の今を知る情報通?と言えるかもしれません。ゲンジボタルには地域ごとの光り方があることはシリーズ1で少し紹介しました。▶シリーズ1「ホタルの生態」

九州~本州に分布するゲンジボタルには同じ種でも3つの異なる光り方が知られていました。

1.中部山岳地帯より東、関東から東北にかけて分布し、4秒に1回光る東日本型
2.静岡、長野、山梨の一部にのみ分布し、3秒に1回光る中間型
3.これら2つの型よりも西側の本州、四国、九州に分布し、2秒に1回光る西日本型

そして、第4のタイプとして2020年に五島列島の福江島、久賀島、若松島、中通島、宇久島のみに分布し、1秒に1回光る五島列島型が発見されました。

この五島列島型ゲンジボタルの特徴は、見た目はゲンジボタルそのものですが、光り方がとにかく早く、五島列島以外の人が見るととてもせわしく光る印象です(と言っても、長らく特殊な光り方をするゲンジボタルとは気付かれていませんでした)。
 

「新たな発見/考察 ※最新の分析結果をもとに」
私は2016年に福江島でその存在を認識してから、これはとても面白い現象であると思い、長崎県内外各所に出向いてゲンジボタルの光り方を調べることにしました。また、地域的な特徴を示すミトコンドリアの遺伝子の違いも調べました。
これらの遺伝子解析の結果、五島列島型は九州本土や壱岐、対馬のものとは異なることが分かりました。

ところが、その違いは期待されるものよりも小さく、九州本土に最も近い五島列島の最北端にある宇久島のゲンジボタルは、九州本土タイプに最も近い特徴を備えていることが分かりました。宇久島のゲンジボタルの光り方は五島列島型なので、遺伝子型と光り方が一致しないことになります。この謎を解明するには分析する個体数をさらに増やし、さらなる調査が必要だと考えられます。奈留島と小値賀島では残念ながらゲンジボタルの姿を見つけられず、ヒメボタルやヘイケボタルのみ確認できました。この2つの島の現状として、カワニナが住む川がないことが、ゲンジボタルが生息していない原因かもしれません(シリーズ1を参照)。

昔はいたのか、今はいなくなってしまったのかは不明です。上五島をはじめその他の島ではカワニナが住む川があるため、その生息が危ぶまれる状態ではないと感じますが、この特別なゲンボタルのことを知り、守り、未来へと残す努力をしなくてはならないと思います。残す努力といっても、特別なことを張り切る必要はありません。よそのゲンジボタル、カワニナを島々の河川に放流する、川の周りを明るく照らす照明を設置するといった環境に無配慮な開発をしなければよいのです。何よりも、ホタルのことを知り、学ぶことで自然への興味を皆が持つようになればきっと大丈夫です。
 

 

毎年、相河地区をはじめ町内あちこちで光輝くゲンジボタルは、秋に清流でカワニナを食べながら成長を続け、夏の訪れを待っています。「ほたるのふるさと相河川」は毎年5月中旬~6月上旬にかけて開催しています。今年も上五島ならではの幻想的な風景をぜひご覧ください。
 


図書館のスーツを着た男性

自動的に生成された説明
大庭先生は、五島列島のゲンジボタルの明滅パターンが、これまでに報告されていたものに比べて速いという特異性を明らかにし、論文を学術誌「Entomological Science」に発表されています。五島列島型ゲンジボタルの論文で2021年日本昆虫学会論文賞受賞。


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